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アゼルバイジャン記8話「竹島激論」 [旅(Travel)]

008・食事の最中に前席のリー氏に激論を挑まれる・510.jpg

昼食時に韓国人作家に激論を挑まれる。
One Korean artist started the argument at the lunch.

○この日は朝11時に集合して、
ピアノ工場見学の予定だ。

ナギ自身はやはり朝5時に起き、
河原を走る。

この河原というのが過去記事でお伝えした通り、
急激な開発で道を切り拓いたために、
大小様々な大きさの石ころが転がる、
賽の河原状態の所だ。

005-003「明けてくる」.JPG

その上を全力で走る中で、
石ころの一つが崩れ、
前進する速度のまま、
凸凹の河原に叩き付けられる。

辛うじて手を石ころの上に突くも、
「歯」が石でこすれる「ガリッ!」という音が、
口中で反響するのを聞いた。

起き上がって口に手をやる、
咄嗟にはどの程度の怪我なのか判らない。
指に血が付き唇の腫れも感じるが、
幸い大怪我では無いようだ。

前よりも慎重にしかしやはり全力で、
残りの本数を走り切り、
明け始めた空の下を、
ホテルまで帰る。

受付にはもう人が出ている。
『怪我をしたので治療したい。』
そう申し出ると驚いて理由を訊ねられる。

河原でコケた事を説明すると、
職務に忠実なホテル職員は、
笑いを必死で噛み殺しながら、
別の係りを呼び治療室まで案内させる。

真っ赤なロシア風制服に金ボタンで、
英語は話せない別のホテル職員が出て来て、
一緒に治療室まで付いて行ってくれる。

手分けして薬を探す。
早朝だから医務員はいない。

アクリノールに似た黄色い薬を見つける。
ホテル職員は身振りで手を洗うように伝える。
ナギは洗面台で血と泥を洗い流す。
顔よりも先に突いた掌の方が、
石ころで切れて傷がずっと深い。
薬液をスポイト状容器から垂らす。

お礼を言って部屋に帰り、
朝はいつもよく眠っている、
同室のシャバンを残して、
朝食を食べに行く。

008・どの食べ物もおいしく食べられる.JPG

口中までは幸いにして切れていなかったので、
どの食べ物も美味しく食べられる。
帰りがけにバーで氷をもらう。
ナイロン袋に入れて患部を冷やす。

部屋に帰りカーテンを開け朝日を入れると、
眩しそうな顔をしてシャバンが顔を手で覆う。

『11時にピアノ工場見学に出発だから、
朝ご飯を食べて来たら?』
『そうする・・・。』
と言ってモソッと起きたシャバンが、
ナギの腫れ上がった顔を見て驚く。

『どうした!?』
『河原で転んだんだ。』
『大丈夫か?』
『もらった氷で冷やしているから大丈夫。』

シャバンは心から心配そうだ。
アルジェリア人にも色々いるだろうけど、
シャバンは素朴な感じで人柄が良い。

シャバンは『朝11時に出発だったな?』と、
確かめてからレストランに朝食に出かける。

部屋で一人になり、
ベランダに出て日記を書く。
高原から吹く風が涼しく心地好い。

人の声がひとしきりガヤガヤと、
下から聞こえてくる時もあったが、
その後はまた山間部の静けさに戻る。

11時前になって下におりると、
受付職員と支配人がいるだけで、
作家の人たちは人っ子一人いない。
『アレレ!?』

もしや!と思い受付職員に訊くと、
『出発は10時ですよ。』

やっぱり!1時間間違えていたのだ。。。
『人の声がひとしきりガヤガヤと』
聞こえて来ていた時に出発したのだろう。

『君は君のエスカーション・ツアーが出来るじゃないか!』
支配人がなぐさめ半分、
冗談半分でナギに言う。

やれやれまた自己責任で「置いてけぼり」だ。
タクシー等で追いかける事も可能だが、
大抵迷惑を掛けっぱなしなので、
今回は大人しく部屋に戻る事にした。

それに今日がバクーに帰る日だから、
荷物をカバンに詰め直しておかなければ。

撤収準備をする内に、
昼12時になり食事に行く。

同様にピアノ工場見学に行かなかったらしい、
韓国人作家で2日目に同室だったミスター・パークと、
もう一人、より韓国大使館に近い存在のように見える、
ミスター・リーが食事を取っている。

同室になったミスター・パークは素朴な人で、
どこかナギの田舎のおじさんに似ている。
英語は話せないが身振り手振りで通じる。

ここでも顔の怪我に驚かれ、
その身振り手振りでコケた事を伝える。

一方ミスター・リーは大使館に近いからか、
どことなく冷淡な対応で、
喋りかける雰囲気でもなかったが、
避けて別の卓で食べるのも、
嫌な感じなので、
挨拶して同じ卓に着く。

「ナイス・トゥー・ミー・チュー」
「ナイス・トゥー・ミー・チュー」
ミスター・リーは母国語である韓国語の影響か、
やたら『プ』という音が混じる英語を喋るが、
ともかく意思疎通は可能だ。

名刺を交換する。
ミスター・リーは大学教授だ。
ちなみにミスター・パークも大学教授だ。
『同じ大学ですか?』
違う、との事。

『君はどんな絵を描いているのか?』との質問に、
ナギは今回の展覧会の図録を見せながら・・・

『特別な事象や特別な人物では無く、
普通の事象や普通の人物に焦点を当て、
その普通が逆説的に宿す、
特別な何かを描き、
その何かが産み出す「希望」を描いています。』

『フムフム』とミスター・リーは頷く。
『ミスター・リーはどんな絵を描かれているんですか?』

『韓国の今そこにある事実だね。
例えば・・・』

ミスター・リーはそこから急に激昂した調子になり、
『独島(ドクト・竹島の韓国名)だ!
日本人はどうして『竹島』なんて呼ぶんだ!!
『竹』なんて一本も生えてないじゃないか!!!』
と竹島論議に一気に雪崩れ込む。

『一体何の根拠で日本人は領有権を主張するんだ?
根拠があるなら聞こうじゃないか!』
そう言いながらも口を開きかけたナギには、
決して一言も喋らせる事はなく、
ミスター・リーは自説を並べ立てる。

反論しかけた事すら生意気だと映ったようだ。
『私は君より年上だし
(韓国は儒教の国で目上の人には、
一般的に丁寧に遇する)、
独島に関しては非常に良く勉強している
(ナギ註・鬱陵島「独島博物館」の捏造資料の類だろう)、
どんな理由で日本人は領有権を主張するんだ。』

ここでミスター・リーはようやく、
手を『おいでおいで』して、
ナギに反論の機会を与える。

『まず竹島は戦後10年近くも経って、
韓国が攻め込んで来て占領したものです。』
『日本だって韓国を占領したじゃないか!』
『その戦争の終結後でしょう?』
『歴史は切れ目の無い長い布のようなもので、
どこからどこまでが一区切りと決める事はできない。』

それではどんな和平条約も、
意味を成さないものになる。
都合の良い時に、
『あの件はまだ方が付いていない!』
と無効にしてしまえるからだ。

『では韓国に正当性があるなら、
どうして国際司法裁判所に行かないんですか?』

するとミスター・リーは激昂してナギの手首を掴み、
『じゃあ君は誰かかが君の奥さんの手首を掴み、
これは私の妻だ!文句があるなら裁判所に行こう!
と言ったら行くのか?
独島は元々韓国のものだから行く必要が無いんだ!』

『大体君は戦争責任を感じないのか?』
『日本の国全体として責任を取る所があれば、
それは取るべきでしょう。

しかし戦後に生まれた人間には、
個人的には全く責任がありません。

そうでなければ、
ある国に生まれる人間が、
その国に生まれたというだけで、
生まれる前から罪を持つ事になるからです。

何人も生まれる前の事について、
責任は取れません。』

ミスター・リーは少し考えて・・・
『ではなぜドイツ人は戦後も責任があると言って、
謝り続けているんだ?』
『それも同じく国家としての責任でしょう。
やはり生まれる前から罪があるとは思えません。』

ミスター・リーはまた少し考えている。
人間がある場所に生まれた、
というだけの理由で、
生まれる前から罪があるかどうか、
考えているようだ。

ナギの私見では『ある訳が無い』。
『ある!』というなら、
ミスター・リー自身が、
戦中の日本人が行ってきたように、
朝鮮半島に生まれたというだけで、
誰かから差別されるという事にも、
少なくとも一部の主張者にとっては、
正当性が宿る、という事になってしまう。
これほどオカシな話は無い。
ありえない事だ!

次はナギから質問する。

『あなたは韓国が竹島を占領する時、
韓国が主張する国境線を越えたとされる、
日本人の漁民を韓国が40人以上、
殺傷している事はご存知ですか?』

『漁民を?』
ミスター・リーはギョッとしたようだ。
『ただの漁民です。』

『百歩譲って韓国の主張する国境線だとして、
拿捕すれば良いだけではないですか?
ただの漁民を射殺する必要がありますか?』

ミスター・リーは明らかに動揺したようだ。
元々韓国の教育を長年受けただけで、
冷血漢というのでは無くむしろ熱血漢だ。
しかもその「教育」から、
『漁民44人殺傷』の事実は欠落していたようだ。

それでも振り上げた拳は容易には下ろせない。
『40人が何だって言うんだ!
戦争中に日本人は何人、
韓国人を殺したんだ!』

それでは父親が殺人を犯したら、
その子を殺す事も自由になる。
これは最前書いたように許されざる事だ。

『ではある国に生まれた国民が、
その国に生まれたというだけで、
別の国の国民と、
必ず敵対しなければならない理由は何ですか?』

ミスター・リーは少し考える。
『私は敵対しようとしているのではない。
議論を深めようとしているだけだ』

ここら辺がホコの納め時だろう。
『では今日は意見が合わない面もありましたが、
議論を深められて良かったです。』
『こちらも深められて良かった。』
とミスター・リー。

隣席のミスター・パークはその間、
ずっと苦い顔をして黙っていた。
英語が話せないというだけでは無く、
食事中に論争を吹きかけるような、
非常識な人物ではないのだ。

ともかく自説を爆発させるだけ爆発させた、
ミスター・リーの方がその後の日程に於いて、
論争を蒸し返す事は二度と無かった。

もっともこれは例の橋下大阪市長の、
『戦場では慰安婦も必要だった。』
発言の「前」に行われた討論だから、
「後」であれば更に長引いた事は、
まず間違い無い事だろう。

その後それぞれ自室に帰り、
この地ギャバラからバクーに戻るために、
荷物をまとめて受付に集合した。

受付に下りると名前を呼ばれる。
『ミスター・ナギ、
あなたは作品の値段を、
どこまで下げる事が出来ますか?』
事務局の女性からの質問だった。

(つづく)

+++++++++++++++++

ようやくアゼル記更新しました。
難しい内容の上に長文で、
中々書く時間が無かったです。

韓国は東京オリンピック開催でも、
足を引っ張ってきましたが、
大局的な視点から言えば、
隣国で開催される事は、
良い経済効果を韓国にも、
もたらすはずであり、
差別意識から妨害するなど、
本当に馬鹿げた事です。

翻って母国、
日本の側を見れば、
同様に韓国人であるというだけで、
差別をする人がいますが、
これも本当に恥ずかしい事です。

自国と他国との関係、
また自国民と他国民の関係は、
時々刻々と変わり、
協力する所は協力し、
叩く所は断固として叩かねばなりません。

好きな国と嫌いな国、
好きな国民と嫌いな国民、
そういった幼稚な判断を政治に混ぜる事は、
日本の国益を大きく後退させ、
世界全体の利益も損ないます。

固定した差別意識を持つこと無く、
国際問題への取組みは、
その時々の事例に応じて、
公正に判断すべきと信じます。

本日は長文をお読み頂き、
ありがとうございました。

では次回はアゼル記最終回を、
9月16日(月)、
更新予定にしております。

よろしくお願い致します!
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kiyo

ナギさん、
今回の話は考えされられました。
如何に、人間は世間というモノに流されやすいのか。
戦争をしたモノも、ヒトを傷つけたモノも、あるいは、傷つけられたモノも、等しく平等に罪を受ける。

しかるに、とある国家においては、恩義は忘れ、恨を重ね、いつの間にか、当然のように、彼らが言うところの謝罪すべきコトを、子孫代々、先祖の不義理を未来永劫、被っていくのだという教育は、あるまじきコトだと思いました。
ほじくり返すと、彼らの山のように高いプライドを傷つけて、強制的に助けたから、恨まれているように思えてきます。

読み進んでいて、自分の主張をどうどうと展開するナギさんは素晴らしいと思いました。

by kiyo (2013-09-09 23:16) 

岩崎ナギ

kiyoさん→丁寧なご感想を頂き、
ありがとうございます。
本当にそうですね。
人間は世間に流されやすいものです。
どこかの国と関係が悪くなると、
その国の悪口以外は言いにくくなり、
どこかの党が政権を獲ると、
その党以外の意見は聴こえ難くなるものです。
ましてや戦争が国と国との間で起こると、
相手国自体や国民が全て間違っているかのような、
錯覚に陥りがちです。
しかし完全な善が無いように、
完全な悪もありません。
どのような状況であれ、
公正な態度を取ろうとする努力を、
放棄するべきではありません。
そしてそれはお互いにとって必要な事です。

そうですね。
世代を超えて「恨み」を伝えていくのは、
間違っています。
お互いに世代が交代している訳ですから。
世代を超えて伝えて行くとしたら、
それは教訓を伝えていくべきであって、
「なぜ」それが起こったのか、
その本質を伝えていくべきです。
もちろんその本質がある民族や、
国家そのものに帰属したものと、
考える事は丁寧に避けねばなりません。
良くも悪くも国の体制に、
国民は流されていくものだからです。
またkiyoさんが看破されたように、
文明、文化がある文明、文化から見て、
劣っているように見えたとしても、
上下関係を付ける形でその国や民族、また地域の、
文明、文化を再形成する事は、
感謝されるよりも、
長い恨みを産み出す事の方が、
多いと感じます。

ありがとうございます。
現代社会においては、
立場の相違は拡大する一方であり、
お互いが公正な態度を取る、
換言すれば民主主義を守り抜く事が、
平等な対話を可能にする、
唯一の前提であると考え、
それに相応しい態度を取るべく、
今後も努力を重ねて行きたく思います。
またご指導よろしくお願い致します。

ありがとうございました。
by 岩崎ナギ (2013-09-10 20:12) 

匁

ナギさん
ご苦労様です。
一般人ではこんな議論にはならないと思います、
和気あいあいと進むと思うんですが。
その後も進展していないみたいですね。

by (2013-09-11 09:05) 

岩崎ナギ

匁さん→ありがとうございます。
かなり韓国大使館に近いような感じの、
作家の方でしたからね。
韓国大使館の人は議論こそ吹っかけてきませんでしたが、
基本的に冷たい態度でしたね。
部屋では友好的だったミスター・パーク夫妻でさえ、
大使館職員の前では遠慮からか、
ナギに話しかけないようにしていたようです。
国と国との関係が個人に及ぼす影響は、
中々ややこしいものです。

韓国の若い研究者たち(美術と考古学の共同事業なので)は、
最初は冷たい態度を取っていましたが、
心が若く柔らかいので、
最後はナギに挨拶し、
会うと握手してくる若い研究者もいました。
by 岩崎ナギ (2013-09-11 09:23) 

カズノコ

大きな怪我でなくて、本当に良かったですね。
ナギさんの韓国編、見事な論旨ですね、礼儀正しく、
冷静で!感嘆しました!
by カズノコ (2013-09-14 07:34) 

岩崎ナギ

カズノコさん→ご心配頂きありがとうございます!
怪我は目立つものでしたが、
おかげ様で重くはなく助かりました。

韓国のみならずいかなる国の判断であれ、
その行動が民主主義に沿うものであるかどうかで、
是非を判断して行きたいと思います。
ありがとうございます。
by 岩崎ナギ (2013-09-14 08:58) 

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